LadyLuck劇場

2012.2 LadyLuckのバレンタインデー


2月14日。バレンタインデー。
修羅場の予感を感じながらも、いつものように七星が出勤する。
 

♪ チリンチリン(ドアの開く音)
 

七星「おはよーございます …あれ、誰もいない?」
 
すると奥から、カズノコ(清田)が出てきた。
 
カズノコ「あ、七星さん おはよーございまーす」
七「あらカズノコちゃん、おはようー 今日は早いのね」
カ「エヘヘ、ちょっと…」
七「なーに?またマスターからチョコでも貰おうと張り切ってるの? マスターは?」
カ「麻美様でしたら、まだ上に」
七「あ、そうなの じゃあ私も着替えてくるねー」
 

七星は奥の事務所のロッカーで、店の制服に着替える。
 

5分後。
 

突如、階段を勢いよくかけ降りる音。
直後、店の方から、罵倒するような激しい声が鳴り響く。
そしてカズノコの悲鳴が聞こえてきた。
 

七「?! ど、どど、どうしたのカズノコちゃん!!」
 

七星が着替え終わって、店に入ると…



七星「・・・・・・・・・・」



七「マ、マスター… なんですか…その格好は…」
 

マスターの出で立ちは妙に露出の多い格闘家のような衣装だった。
左肩には肩当て、胸はほとんど最低限の覆い、そしてTバック気味の後ろ姿。
手には剣の柄、その先からはワイヤー状のものが伸びていて、所々に刃。

マスター(麻美様)「カズノコっ!貴様、なんだこの衣装はっ!!!」
カ「ぐえー、ぐぐぐぐるしいいいいいい」

マスターはワイヤーでカズノコの首を絞め上げていた。

七「マスター、一体どうしたんですか 訳が分かりません…」
麻「カズノコがだな、私に似合うバレンタインの衣装を用立てしたから着てみてくれと言うもんでな。そしたら、この有様だよ!」
七「そんな、SMの女王様じゃあるまいし…」
 
首を緩められたカズノコが、七星に説明する。
 
カ「ゲホゲホ あのですね、これはソウルキャリバーという格闘ゲームのキャラクターでございまして」
麻「それはさっき聞いたわ!」
七「…?」
カ「イザベラ・バレンタインというキャラの衣装でして…ハイ」
麻「単なるダジャレで選ぶな!」


七星は手持ちのiphoneで検索する。
七「あぁ…これか…アイヴィーってキャラの本名がそうなのねー…」

再び麻美様が、蛇腹状の剣のロープでカズノコの首を絞め上げる。
 

七「(嫌なら着なきゃいいのに…何も全部着てから抗議せんでも…)」
 
カ「ぐぐぐぐぐぐ(七星さん、助けて〜)」
 
七「はぁ・・・(ため息)」


もはや七星は、止める気力も起きなかった…


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その後、結局マスターは元の服装に戻った。


カ「ああああびっくりした 死ぬかと思いましたよ〜(>_<)」
七「うん、あんなことしたら普通とっくに死んでるけどね」
カ「これも、麻美様への愛の証っ!」

パコーン! カウンターからシェイカーが飛んできた。
投げたのはマスター。ものの見事にカズノコの後頭部を直撃した。

麻「アホなことばっかり、やってんじゃねぇよ」
 

七「ところでマスター、今年もバレンタインデーですが」
麻「うん」
七「お願いしたものは、出来てますか?」
麻「あぁ、出来たよ。昨日作っておいた 今、出す」
カ「?」

マスターがカウンターの中から出したものは、大きな包み紙!
 
カ「おおっ?!なんとゴージャスな包装紙 こ、これはもしや」
七「チョコレートよ」
カ「おおおおおおおおおおおおおおお」

それは七星がマスターに頼んで作ってもらった、チョコレートであった。

七「あのねぇ、別にカズノコちゃんに作ったわけじゃないから^^;」
カ「( ̄д ̄)エー」
七「お客様に渡すものだってば」
麻「うーん、でもどうやって渡す基準を作るか、考えてねぇんだよなー」
七「そうですねー …あ、マスター、こういうのはどうでしょう?」


マスターに、七星が何やら耳打ちする。


麻「ほー、面白そうじゃねーか よし、セッティングは任せたぞ」
七「わかりましたー」
カ「え?何をするんです?」
 



開店時刻。



店の前には麻美様のチョコを目当てにする者、渡そうとする者で溢れていた。
彼らの前に置かれたのは、ひとつのテーブル状のもの。
 
誰もがそのテーブルを見て疑問に思っているところに、…



「挑戦者求む!」



七「LadyLuckへ、ようこそ!さぁ皆さん、今日はバレンタインデーです!
 特別企画として、マスターと腕相撲で勝負して、勝ったらチョコをプレゼント!」

一同「おおおー!!!」

七「しかも、マスターの手作りチョコレートです!早い者勝ち!
 挑戦したい方は、商店街でお買い物をして、レシートを持参してください。
 2,000円以上で1回挑戦できます」

一同が買い物をしに、一斉に散らばっていく。


麻「お前もよく考えたものだな 商店街全体を巻き込むなんて」
七「こうした方が、周りの店にもお金が落ちると思いまして」


カ「でも、七星さん 麻美様、本当に大丈夫なんですか…?」
七「あら、カズノコちゃん マスターが負けると思ってる?」
カ「いくらなんでも、さっき100人以上いたじゃないですか 疲れが心配で」
七「マスターの場合は規格外だから大丈夫 心配ない」


七「おっと、最初の挑戦者です!」

最初の挑戦者は、麻美様ラヴァーズのリーダー・ユキであった。


ユ「挑戦します!チョコが欲しい〜!!」
 
麻「んー、…ハンデやるか。」

マスターは肘を浮かせて構えた。

麻「あたしはこの状態でやってやる さぁ、来な」
 
ユキは肘を台に乗せて、マスターと手を組む。この時点で恍惚の表情だ。


七「それではいきましょう レディー、ゴーッ!」
 
ユ「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」

渾身の力を込めるも、マスターの腕は微動だにしない。

麻「ははは、甘い甘い そんなことじゃああたしのチョコを奪うなんざ、10年早いぜ」



「一丁あがり!」



勝負は一瞬のうちに終わった。ユキは体ごとひっくり返された。

ユ「ひぇぇぇ、強すぎですう^^;」 



こうして麻美様ラヴァーズを始めとして、様々な人がマスターに挑んだ。

「はいー、挑戦者の負けー」
「はい、残念〜」
「あーっと、これは完全に遊ばれてますね …はい、失格〜」

しかし、誰一人として麻美様の腕を動かすことすら出来なかった。
後半は男性客が多く、屈強な体格の挑戦者もいたが、ことごとく失格。
あまりにも麻美様が強すぎるため、テーブルの挑戦者側が砕けてしまった。
 

七「はい、もういませんか〜?」


するとギャラリーの中から、手が上がった!


麻美様ラヴァーズの古参の構成員にして、「よく訓練されたラヴァーズ」こと、柳一葉。
毎年バレンタイン時期になるとLadyLuckの天井に張り付くことはよく知られている。


七「そういえば、今年はやらなかったのね どうしたのかと思っ… …っえ?!」


前に出てきた柳は、明らかにいつもと違っていた。

柳「さぁ麻美様、いざ勝負ですっ!」
 
麻「・・・・・」



「中の人なんていませんよ」



カ「ちょ、勝負ったって、それは…!!」
 
麻「お前、ちょっと手の動きがぎこちないんじゃないのか?
 目の前のテーブルの位置がわかってないようだが?」
 
柳「え?いやーなんのことでしょうわかりません(小声で:もうちょい右…)」

七星もそのまま勝負させていいものか悩む。


七「うーん、柳さんちょっとそれは…」

失格にしようとするのを、マスターが止めた。

麻「おい、構わんぞ」
七「え?やるんですか??」
麻「時に七星よ、これで何人目だ?」
七「ちょうど…100人目です」
麻「そうかい、100人目か」
 
マスターはそう言うと、不敵な笑みを浮かべる。
 
麻「百鬼夜行ってのは、最後の100人目がとてつもなく強いんだよ」
七「はい…」
麻「その100人目、相手にとって不足はねぇ やってやるぜ」

一同「おおー!!」


柳はかすかに笑みを浮かべる。
麻美様の性格なら絶対に乗ってくると読んでいたからだった。

柳「(いく麻美様といえども、現役の力士相手だったら…むふふふふ)」



マスターは柳を見返して、一呼吸おいて…

麻「おう聞けお前ら!このあたしが負けたら、この場でこの衣装を脱いでやらぁ!」
 
その言葉を聞いた瞬間、一帯に巨大な歓声が響きわたった。
慌てたのは七星だった。

七「ちょ、マスター!!そんな約束しちゃっていいんですか?!」
麻「そのくらいのリスクを負わねぇと、力も出ねぇってもんよ」
七「ふええ… あれ?カズノコちゃん?」
 
カズノコの姿がなく、七星がキョロキョロしていると…
 
カ「柳さーん、がんばってー♪」

なんとカズノコは、柳側に回っていた…
 
七「カズノコちゃん!何やってるの!!」 
七星が連れ戻した。

カ「すみませーん だってだって私も麻美様のハダカが 見 た い です…」


マスターが、台の上に肘を起き、姿勢を低くして構えた。本気の体勢である。
そこに、柳(?)の腕も乗り、組み合う。マスターの手よりもふた周りは大きい。


七「マスターの肌が、赤みを帯びてきた… 血の巡りが良くなったってこと?」
カ「えっ」
七「ようやく本気が出るようになってきたのかな 今までのは準備運動…か…」
カ「ええーっ?!だって、ガテンの人とかアメフト選手みたいな人ともやってるのに?!」


七「それではいきます レディー・・・ゴーッ!!!」


両者の力比べが始まった。両者、微動だにしない。
固唾を呑んで見守るギャラリー。
響くのはマスターが力を入れるあまりの、歯ぎしりの音。


麻「うぬぬぬっ…」

 
さすがのマスターも苦悶の表情。だが一歩も譲らないまま時間が過ぎていく。
やがて、柳(?)が勝負を決めにかかり、徐々に力を強めていく。
マスターの右手が、徐々にデッドゾーンに近づいていく。

一同「やーなーぎ!やーなーぎ!」

全員柳コールで、マスターの裸への期待を膨らませる。
中には既に妄想をして鼻血を出す者もいる。
 
柳「こ…これでもう…決まりですね!」

麻「な…なんの…!こ…このあたしに…敗北の二文字はないんじゃ!!」

 ググググググ・・・

一同「おおおおーーーーー!!」

なんと、劣勢だったマスターが盛り返し、元の位置まで戻してきた!

 柳「(ちょっと、何やってるの!!本気出してよ!)」
 ?「(そ、そんなこと言っても 本気なんですよ!)」
 

カ「麻美様!頑張って!!!」

裸が見たかったはずのカズノコも、マスターに声援を送る。

七「あれ、カズノコちゃん…」
カ「そ、そりゃ…拝めるものなら拝みたいですよ!でも、でも…!」
 
その声援が届いた瞬間、マスターの右腕に異変が起きた。


ボコッ…!!!



七「?! カズノコちゃん、今の見た?!」
カ「えっ 盛り返したところですか?」
七「違うの!今、一瞬…マスターの右腕が盛り上がったような…」
 

 ?「(こ、こんな細腕の女性のどこにこんなパワーが…!!)」
 柳「(ちょっと!しっかりして!!)」
 ?「(こ、このパワー…大関…いや、横綱級だ!!)」
 

麻「柳よ…覚えておけ!このあたしは、甘い女じゃねぇんだよ!!」
 
柳「ひっ!!」
 
麻「うぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 
マスターが絶叫したその瞬間!!



「に、人間技じゃない!!」



一同「うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
七&カ「わぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ズドーーーーーーン!!!


なんと、絶叫と共に柳をぶん投げた!
その衝撃で柳の中からもう一人、屈強な男性が出てきた。
それは、近所の相撲部屋の関取だった。


さすがのマスターも、息も絶え絶え、疲労困憊だった。

麻「ハァッ…ハァッ…おい…七星!この勝負…あたしの勝ちだろ?」

七「は…はいっ!この勝負、マスターの勝ちです!」
カ「うわぁーっ!凄い凄いです!!」
 

この瞬間、当然だが麻美様の裸を拝むことは出来なくなった。
だが、集まったギャラリーは誰一人として不満を言うものはいなかった。

そして、惜しみない拍手が送られたのであった。


マスターは、斜め下に目線を送った。視線の先には気絶している柳と、関取…。



ため息混じりにマスターは言い残した。

麻「おい柳、今度勝ちたいんだったら、パワーショベルにでも乗ってきな…」


麻「おいっ、七星」
七「はいっ」
麻「もう勝負はヤメじゃ 部屋戻って寝る」
七「はい…^^;」 

麻「あー、そうそう チョコはもったいねぇからよ、そこでセリにでもかけな」
カ「オークションですか?!」
麻「そんでよ、落札された金は、この前の震災被災地に寄付してこい いいな」
七「はい、わかりました」
 

腕相撲の会場から、今度はオークション会場に変わって、再び盛り上がる店の前。
 

マスターはそのまま店の2階の自分の部屋に入り、バニースタイルのまま寝転がる。








麻「あーあ、疲れたぁ〜… 今度は、ちゃんと利き手で勝負させろっつんだよなー」


そう、会場の人たちは大事なことを忘れていた。


マスターの利き腕は、左だということを…


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