メトロ☆レンジャー

第11話 後編
「過去の功罪」


:RAK(マルノウチレッド)
:隼鷹(ユウラクイエロー)
:とわいせるな(トーザイブルー)
:しおん(チヨダグリーン)
グレー:怪人べるず

(白:ナレーション他)


<前回までのあらすじ>
死闘の末に怪人べるずに勝利した一行から遅れたせるな。
せるなが拾い上げた紙切れと、べるずが怪人になってしまう前の、過去の話…

「昔、お前達メトロレンジャーのように、札幌にも地下鉄戦士がいた…
 私は…かつてその一員だったのだ」


「!!」

「まだ若かりし頃の話だ…」




私はかつて、札幌市交通局の裏の組織として秘密裏に構成された鉄道戦士「ST隊」の一員として、その任務に当たっていた。しかし、一向に減らない人身事故や予算の縮小、事業自体の見直しなどにより、中途半端な形での解散を余儀なくされた。
これまでがむしゃらに働いていたのに、用が済むと捨てられる…典型的なリストラサラリーマンのごとく私は落ちぶれていった。

その日は打ちのめされた気持ちで帰宅した。
だが、私を打ちのめすのは何も働き場所だけではなかった。

自宅のマンションのドアを開けた。誰もいない、無人状態。

「また、いないのか…。」

半ば、諦めにも似たため息が出る。
疲れた体をソファーに投げ出すこともなく、着替えを済ませ思い当たる場所へ。
着いたところは、託児所だった。

「パパが迎えに来ましたよー」

保育士の方が、まだ満足に話すことも出来ない我が子を抱えていた。
一時預かりの託児料金を払おうと財布からなけなしのお金を出す。

「今日は、ずいぶん長かったですよ」

タイムカードの預かり時間の、あまりの長さに私は一瞬体が硬直した。
時間を逆算すると、私が出勤して、まもなく預けた計算になる。

「(あいつ…私が家を出てから、すぐさまこの子を預けて…)」

スヤスヤと眠る我が子を抱いて託児所を後にした。

家に入り、そのまま娘を布団へ運んだ。
誰もいない食卓で、ひとりで晩飯を食べる。
…妻が帰ってくる気配はない。







「それって…共働きとかじゃないですよね?」

べるずはため息をひとつつき、その問いに答えた。

「違う。あいつは働いていない。
 仮に働いていたとしても、給与明細もないし、口座の金は減る一方だ。
 増えているものといえば、キャッシングの請求書だったな。」

「うわ…ひどい…しかも子供まで置いて…」
せるなは言葉を失ってしまった。







ある日。私は早くから職を求めてハローワークへ行くことにした。
夜中、恐らく私が寝てから帰ってきたであろう妻は、いまだ布団の中。
もはや起こす気にもなれない。置手紙だけをして、玄関を出た。

娘もまだスヤスヤと寝ていた。
いくらなんでも今日は母親がいるんだから、任せても大丈夫だろう…。
仮に託児所へ預けられるとしても、放置されるよりはマシだ…。

だが、この判断が悲劇を招くことになろうとは、思ってもいなかった。



職探しはなかなか思うように行かない。条件が厳しいものばかり。
しかしそんなことも言ってられないので、それに近そうなものをいくつかピックアップ。
それぞれの情報を調べて窓口へ…の繰り返しだった。

ハローワークとジョブカフェに長居するだけで、一日が終わってしまった。
成果があったかどうかは不透明。とりあえず帰ることにした。



「ただいま」
家に入ると何か様子が、空気がおかしい。
ただならぬ気配がする…玄関から居間に入った私は、見てはいけないものを見てしまった。


目の前に横たわっていたのは、紛れもなく自分の娘!
「おい!どうしたんだ!しっかりし…し、死んでる!!そ、そんなバカな!」
調べてみると、見たこともないアザな内出血の痕、そして紛れもなく首に絞められた形跡があった!!

「は、はやく110番をしなければっ!!」

「その必要はないわ」

「何?!…あっ!!」

顔を上げると、そこには私の妻がいた!!

「おい!自分の子供が死んでいるのに、なんでそんな冷静でいられるんだよ!!」

「だって、うるさいんだもの。人がテレビ見てるって言うのにさ」

「子供がうるさいのは当たり前じゃないか!」

「アンタなんかに、主婦の辛さなんかわかんないでしょ」

「おまえ…よくそんなことが言えるな!!飯も作らず掃除もろくにせず、あげくは娘の世話までほったらかしにして遊んでるじゃないか!」

「ふん、なによ。安月給のくせにさ」

「なんだと!!…いや、そんなことよりも早く警察を」

「アンタ、妻をかばおうって気にならないの?」

「何?!ま、まさか…おまえが…!!!」

「相変わらず、にぶいよねー」

「殺したのか?!まさか!!」

「あんまりうるさいから、ちょっと黙らせようとしたら勝手に死んだだけよ」

「な!!そ、それが…母親として取る態度かっ!!」

「別に産みたくて産んだんじゃないし。子供欲しいって言ったの、アンタでしょ」

「お前じゃないか!」

「知らない。あ、知ってる?女の記憶って男よりも正しいのよ」

「知るかバカ!そんなことよりも…何ということを!!」

「アンタが(罪を)かぶればいいのよ。どうせ失業中なんだし不思議じゃないでしょ」

「お前!自分のしでかした重大さが解らないだけでなく、その態度、人間として最低だ!」

「アンタに言われたくないね」

「子供にとって守ってもらえる親に、その命を奪われた娘のことが不憫にならないのか!!」

「知らないよ。アンタの子でしょ」

「おまえが母親だろうが!!!」

「ま、いいわ。あ、ここに判押して」

「…それは…離婚届!!」

「もういいわ、アンタのことなんか。新しいオトコ見つけたし」

「…!」

「あ、あと慰謝料キッチリもらうから。刑務所から払いなさいよ」

「…今まで、ワガママもある程度飲んできた。遊びたいのも認めていた…」

「ふん、あんなもんで?」

「だが…今回ばかりは…絶対に許さん!!」

「あ、暴力?いいよやれば?DVで訴えてやるから」

「……!!」



その言葉を聞き終わる直前か、聞き終わった頃の私の記憶は無い。飛んでいる。
はっきりと意識が戻ったのは、こんなところでST隊のパワーが蘇った、と自覚した時だった。

私の前には、手刀で心臓を一突きされ、禍々しい形相で息絶えた妻の遺体があった…。

「あ…あ…あ…」

もはや言葉にならなかった。
こんな形で娘の仇討ち、しかもその相手が自分の妻だということに。

自分の人生は終わった。そう思ったときには既に車のハンドルを握っていた…。
逃げ出したわけではない、そう言い聞かせて、残る自分の精算のために…。







「そ、そんな凄まじい過去があったなんて…」
想像を絶するべるずの過去…。
せるなは聞いてはいけないことを聞いてしまった自責の念に駆られた。

だが、それを察したべるずはまだ話を続ける。






私は定山渓の奥、ダムによって出来た湖「さっぽろ湖」の展望台にいた。

あの悪夢の日から数日。報道ではそのことが伝えられている。
警察の現場検証の結果、娘の首を絞めたのは妻だということが証明され、これで妻の目論んだ私への責任転嫁は消滅した。だが、私が妻を殺めたという事実は消えず、私は行方不明と言うことになっていた。無理心中を図ったのでは、とさっきのラジオでアナウンサーが報じていた。

「な、なぜだ。なぜこんなことになってしまったというのか。」

「鉄道戦士として順調だった人生が、たったひとりの女と出遭っただけで、どうしてこんなに狂ってしまったんだ。」

「わ、私は自分のあまりの不運さが恨めしい…」

私の手には1枚の写真が握られていた。家族で写した写真だった。
悪夢の元凶とも言える部分は、さっき車の中で切り離し、焼いた。
写っているのは、私と娘だけ…

「私は、もっと普通の人間に生まれたかった!」

やがて私の体が、吸い込まれるように湖へ落ちていく。

「た、大変だー!身投げだぞ!」
「こ、この深さじゃ助からねーぞ!!」


ゴボゴボ…

「(く、苦しい…やはり…死にたくは…)」



その時、意識を失いかけた私に何か声が聞こえたような気がした。

「ひとつだけ、助かる方法があるよ…」

その声を聞いたとき、苦しさが消えた。水の中なのに、息も出来る。

「な、なんだ?どうなっているんだ??水の中なのに息が…」

私の目の前には不思議な事が起きていた。
目の前に、人間…女性の姿が!
黒い服に身をまとった、顔立ちの端麗な美しい女性の姿があった。

「おまえさんもまた、不幸を背負って苦しみ、世間から抹殺されかけた身だな」

「な…なんですか、アナタは一体?」

「…かつて、おまえさんと同じように、やはり同じように不幸を背負い世間から抹殺され、そしてあまりにも強すぎる為にその存在を消された、ひとりの女性鉄道戦士がいた…」

「に、似ている!私の人生にそっくりじゃないか!」

「だが…私はおまえさんを、彼女のように死なせるわけには行かぬ」

「もう一度蘇って、おまえを不幸に導いた者たちを、その者たちと同様のものを懲らしめてやるのだ!」

「完全無欠の鉄道戦士…同じだ、私が夢見ていた姿と!」

「よし…やりましょう!その女性鉄道戦士の意思とやらの続きを!」

「待ちな。そう簡単には認められねぇ」

「あたしが今から、おまえの実力を試させてもらう」

「あの、巨大な湖底の岩を破壊してみな」

「おお、上等だ!元・ST隊べるずの力を見せてやる!」

私はかつての得意技を使うことにした。

「おおお! 行くぞ!モーター・サイクリング!」

両腕から発生させたゴムタイヤを高速回転させて投げつけた。
轟音と共に岩は砕け散り、あたり一面に水中でありながらゴムの匂いが漂う。

「うむ…合格だ」

「おまえさんは今から、あたしの作ったこの特製マスクを身につけ、生まれ変わるのだ」

女性から受け取ったマスクを装着しただけで、力がみなぎってくる。

「あたしはゴムタイヤ同盟の首領、ドン・あさみ。」

「これからおまえさんは、あたしの元で働くが良い」

「命の恩人であるばかりか、働く機会まで与えていただき、感無量です」

「そうだ、その意気で、おまえの人生を追い込んだ者たちに、制裁を与えるのだ!」

「ははーっ!」

そして私とドンはこの水面から勢いよく上昇し始めた。




その頃、湖の展望台では…

「おい、さっきの人、自殺したんじゃ…」
「あ、なんか湖がヘンだぞ?」

「あーっ!」

「さ、さっき身投げした人じゃねぇか?!」

「なんだぁ?!飛び上がって行ったぞ! あ、消えた…夢かこれは??!」

「か、神になって蘇ったのか?!」

不思議な出来事に、展望台の人々や駆けつけた警察は騒然となってしまった。







「…そうして私は、やはり同様に不幸な目に合ったユリ・カルマを同士に加えた」

「そして、ドンの野望達成のために、共に行動をすることになったのだ…」

「そうだったんだ…」


「こんなことを言うのも難だが…」

「なに?」

「もし、キミの様な者と早く出会っていれば、こんなことにはならなかった…」

「…そんなこと、言っちゃダメよ」

せるなは、拾い上げてから持ったままの写真を差し出した。

「あなたには、こんなにかわいい娘さんがいたじゃない。それは…奥さんがいたからでしょ?男一人じゃ、子供は産めないんだから…」

「た…確かにそうだな…」

「確かに、殺したりとかなんて絶対許せないですよ。でもね…人間って、相手の嫌なことほど目に付くけど、それは…自分を映す鏡なんだって、教わったわ。人のフリを見てわが身を直せってことわざじゃないけど、自分の内面にあるものほど、相手がソレをすると目立つんだって」

「あ、でも誤解しないでね!あなたが娘さんを殺す可能性があったってことじゃないから!」

「…教えられたな…まだ若いのに大したものだ」

「確かに…私はあまり家庭を顧みてはいなかったかもしれない。娘と遊ぶようには心がけていたが…元・妻にはきっとそれが“都合のいい時だけ面倒見る”くらいに思われていたのかもしれないな。もっと家族で出かけたりとか、やるべきことは探せばあったのかもしれない。」

「…ごめんなさい、こんな話して、辛いことを思い出させて…」

「いや…いいんだ」





「せるな…。もう、仲間は行ってしまったぞ。早く追いかけろ。」

「う、うん」

「あ、…いや、待て!これを…」

べるずが手にしていたのは、古びた乾電池のようなものだった。

「これを、持って行くがいい」

「これは…何ですか?」

「キミのその優しさに答えて、これを贈ろう。キミなら役立てられるはず。」

「一度だけ、キミの役に立ってくれるはずだ…効力の程は私にもわからないが。」

その乾電池を受け取り、ポケットにしまった。
「じゃあ…行くね。無理に動かないで、休んでいて。」

「あぁ…」

「がんばれ…!」

敵方、いや、もう敵ではないが、意外な言葉をかけられ、せるなも少し戸惑う。

「ありがとう、じゃあ。必ず、迎えに行くからね…みんなで!」

やがてせるなの姿も見えなくなった。




ひとり取り残されたべるずはそれから、動かなくなってしまった…。

「…こ、これでいい…」





3人は長い階段をずっと歩いていた。

「そういえば、ブレードどうします?折れちゃって…」

「うーむ、しかしアイツ相手の戦いでで折れたということは、ドンには通じないのかもしれない」

「そうかもしれないですけど、ちょっとキツイですね」

「ブレード?」

「うん、折られちゃったんだ」

RAKはそのブレードの破片をしおんに見せる。

「似たようなものだったら…ありますよ」

「なに、本当か!」

「しおんちゃん、持ってたの?!」

しおんが差し出したのは、かなり古びたマスコン部品だった。
どの形式の車両のものかは、わからなかった。

「私では使えませんでしたが、リーダーなら使えるかも」

「そうだな、ないよりはマシか」

「ありがとう、しおん。借りておくよ」



さらに長い階段が続く…



「それにしても、長い階段だな」

「エスカレーターくらいつけやがれってんだ」

「そういえば、せるなはまだ来ないのか」

「遅いですね」

「あっ、来ましたよー!」

走って階段を下りてきたせるなに、3人が声をかける。

「おいおい、一体何をしていたんだ?」

「まさかアイツにとどめをさしたんじゃないだろうな」

「ち、違いますよー!」

「せるなちゃんが、そんなことするわけないじゃないですか」

「それもそうだな」

「(コイツのことだ…アイツを一人で放置できなかったのだろうな)」

「? リーダー?」


「あぁ、悪い。さぁ、行こう。」



どのくらい時間が経ったのだろう、果てしなく長い階段の、終わりが見えてきた。

「お、階段が終わった!」

「でも、変ですよ。扉も通路も何もない。」

4人が階段を下りた床に立ったその瞬間、階段が消えた!


「あっ!!罠?!」

「いや違う…」

「な、なんだか…ただならぬ気配がします!」

「これは…来るぞ!」

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