メトロ☆レンジャー

第12話 その6
「信 頼」


:RAK(マルノウチレッド)
:隼鷹(ユウラクイエロー)
:とわいせるな(トーザイブルー)
:しおん(チヨダグリーン)

薄グレー:ドン・あさみ

:NAL
グレー怪人べるず

(白:ナレーション他)


<前回までのあらすじ>

孤軍奮闘を続けるせるなが、遂に磔にされる大ピンチ!

この時、遠間からNAL達が見た黄色の手は…?!
そして、リーダーは…

「む、無念…」

もはや諦めの境地に至ったのか、涙を浮かべるせるなが唇を噛む。
だが、誰かが耳元でささやくような気がした。


 「諦めちゃダメよ…!」


そして急降下するドンに向かって、何かが飛んできた!
そのままドンに体当たりし、軌道が変わってせるなは九死に一生を得た。
軌道の変えられたドンは訳も分からず、そのまま地面に叩きつけられた。

「?!」

その拍子に十字架が、せるなの腕に磔にしたサーベルをかすめたため、砕け散った。

「?!…はっ!!」

何が起こったか一瞬分からなかったが、せるなはすぐさま自由になった右手を使って、残りのサーベルを取り外した。


「一体、今のは…?!何が起きたの?!」

その黄色の影の正体は、すぐにわかった。

「じゅ、隼鷹さん…!!!」

「な、なんだと?!」

ドンは仕留めたはずの隼鷹が復活したことに、動揺を隠せなかった。

だが、隼鷹はその呼びかけに応えることなく、その場に立ち尽くしている。

見ると、隼鷹の背中にも雷のサーベルの破片が刺さっていた。



「死んだと見せかけて、生きていたのか?」

「いや…違う。ヤツは確実に一度ドンによって殺されている」

NALの疑問は深まるばかりだ。
「どういうことなんだ?」

「私は、メトロレンジャーに敗北した時、せるなにひとつのアイテムを託した」

「?」

「それは、非常電源装置と一般に呼ばれるものを、小型にしたものだ」

「本当の危機に瀕した時に、一度だけ使うことが出来る」

「見よ、NALよ。」

ベルズが指をさした先には、何やらボタンのような部品があった。
「せるなは、なんという奇跡を起こす女なのだ。」

「転倒した時に、そのはずみで落下したボタンが導線となり、地面にふれて押されたために作動したのだ」

「まさか、そんな信じられないことが起きたというのか」

「しかし、本来は自分のために使う装置。それに、私が渡したのは基本となる電池のみ」

「どういうわけかはわからんが、いつの間にか隼鷹に仕掛けておいたのだろうか」




「そうか、あの時もらった電池を落として、隼鷹さんがいつの間にか拾っていたんだ…」

最初の大風攻撃の時など、思い当たる節はいくつかあった。
だが、結果として、現実としてそれがあったから、せるなは助かったのである。

「さらにサーベル(雷)の電気が、落としてONになったボタンにもかかって、偶然にも共鳴したのね」

それはUSBケーブルなどのジョークグッズにも似た、おもちゃのボタンだった。




「しかし、こんなところでこんな偶然が起きるなんて…信じられん」

「それに、仮に隼鷹が身体を動かせとしても、精神はまだストップしたままだ」
「それなのに、せるなを助けに行ったのか」

「凄い…!まさに、2人の間柄だからできた芸当だ!」



せるなが、隼鷹の背中に刺さったままの雷のサーベルを抜く。

隼鷹の目はまだうつろなままだったが、せるなが語りかける。

「ありがとう…やっぱり、あなたとの信頼…本物だったわ!」



「そう言って感傷に浸っているのも、今のうちだ!」

甦ったドンが、またしても雷のサーベルを持って、急降下する!

「危ない!逃げろー!!」

遠くからNALが叫ぶが、せるなは一歩も動かない。

「気が付いていないのか?!」

「やだなぁ司令…気がついてますよ」

「?!」



カッと目を見開いたせるなは、振り向きざまにロッドを向けて、サーベルとはち合わせた!

物凄い金属同士のぶつかる音が鳴り響く。

だが、せるなは動じなかった。

「な…ロッドだけで、私のサーベルが…!」

「ロッドだけじゃないわ…」


 キラキラキラ…


語りかけた瞬間、ロッドがオレンジ色に輝き始めた!

「あなたはね、もうひとり、呼び覚ましちゃったのよ…」

「?!」

「ねっ…まりむ!あなたとの信頼も、完璧よ!」

「うわっ!!」

サーベルが砕け散り、ドンがバランスを崩して転倒した。


「うぬっ…おのれ!こしゃくな…!」





「うわっ!」

スクラップの残骸の柱をよじのぼり続けるRAK。いまだ上は見えない。

「一体、どこまで続くのだろう…ん?こ、これは?!」

RAKが手をかけた場所の残骸。それはかつての丸ノ内線300系だった。

「おお…こ、こんなところで先代の痛々しいを拝むことになるとは…なんということだ」

改めて、ドンの野望を打ち砕くことを誓うRAKであった。と、その時…

「おや?」

スクラップの奥に、光るものを見つけた。

「あれは一体、何だろう?」

匍匐前進くらいでなら進むことが出来る程度の穴に入ってみる。
やがて、2畳ほどの広さの、残骸に囲まれた空間に出た。
光の正体が、RAKの目に飛び込んできた。

「こ、これは…?!」





「こうなったら、ふたりまとめて仲良く始末してくれる!」

ドンは両手をかざし、真黒な六角形を浮かび上がらせた。
それは、ドンが現れた魔方陣を彷彿とさせる。


「何を出す気?」

「ふっ、出すのではない。こういう使い方もあるんだぜ」



「南平岸・ブラックホール!!」


「う、うわわわわわっ!!」

地面にロッドを突き刺して耐えるが、強烈な吸引力に辺りの瓦礫がどんどん吸い込まれていく。
瓦礫に混ざり、しおんの体までもが吸い寄せられていった!

「あーっ!!」

しかし、助けに行くこともできず、自分の体を守ることで精いっぱいだった。
せるなの身体も、徐々にジリジリと引っ張られていく。
吸引だけではなく、吸い寄せられる瓦礫からも身を守らなければいけない状況だ。

そんな中、瓦礫の破片がせるなの頭に当たった!

「きゃあっ!!」

一瞬力が弱まり、ブラックホールに徐々に吸い寄せられる…

「・・・!」

突き刺したロッドごと、引っ張られるせるなを、またしても隼鷹が食い止める。
隼鷹が抱きかかえ、ブラックホール攻撃を凌ぐ。

「・・・!」

言葉は発しないが、目で語りかける。
それだけで、せるなには十分伝わった。

「隼鷹さん…!!」

「所詮、寄せ集め同士の者では、この私は倒せぬのだ!」

さらに強烈な勢いで瓦礫が吸い寄せられ、隼鷹の頭にも命中した。

「うわあっ!」

当たったショックで、意識が戻ったのか…
しかしそんなことを気にしていられない状況に変わりはない。

「キャーッ!」

「ふっ…信頼などとバカなことに執着するから、痛い目を見るのだ」

「そんなもので、私たちの信頼が崩せるものですか!」

「えっ?!」

「こ、この声…まさか?!」

一同が耳を疑う。

その瞬間、ブラックホールの中からまばゆい緑色の光が現れた!

地面スレスレでUターンしてきた光がドンにクリーンヒット!
ダメージを負ったドンの力が弱くなり、ブラックホールが消えた。

「な、なんだ今のは」

「あーっ、あれは!!」

隼鷹が見上げた先に、仁王立ちになっていた光の正体が明らかになった

「し、しおんさん!!」


そこには、ファイアボールで絶命したはずのしおんの姿が!

ダメージは完全には癒えていないが、倒れた時ほどボロボロになってはいなかった。
砕け散った06系のマスクに代わり、5000系をイメージしたようなマスクになっている。

「それは…東西線のマスク?いや、緑色…」

「北綾瀬支線?」

「(5000系…まさか、まりむが何かを…?!)」

しおんの目には闘志が光り、沸々と湧き上がるものを感じる。

「まさか、瓦礫と一緒に吸い込んでいたはずの貴様が…」

「そうね、あのまま吸われていたら確実に死んでいたかもね」




ブラックホールに吸いこまれた直後、突如として意識が戻った。
いや、正式には異なるのかもしれない…

「(あれ…真っ暗…ここは、どこなの…?私、死んじゃったの?)」

考えることは出来るが、体が動かない。
両手を広げ、仰向けに倒れたまま、首と手がわずかに動かせる程度だ。

「(えっ…あれは…何だろう…)」

伸ばしている手を懸命に伸ばし、その破片に手をかけた。
その瞬間、何かがしおんの身体を駆け抜けたような気がした。

「うっ…?!…あ…あーあー…あ、声が出せる…あ、なんか体も動かせる」

しおんはゆっくりとその場で起き上がった。

「この破片のせいなのかな これは一体…?なんの回復アイテム?」

「(しおん…さぁ…目を覚ましなさい…あなたは、こんなところで死んではいけない…)」

「あっ!」


破片が光りだし、徐々にしおんの目の前に合体していく!
そして、ひとつのマスクを形成していった!

形成されつつあるマスクから声が聞こえてきた。


「ここは、ドンあさみが作り上げたブラックホール…その先には、3つの線がある」

「3つの…線…?えっ、それは…あっ!」

「ブラックホールが地下への入口なら、その先は地下路線ねっ!」

「札幌には、何色の線がある」

覚えたての知識を何とか探り、しおんが応える。

「えーっと…緑、オレンジ、青…です」

「その力を手にして、この区域から脱出するのだ」

「ええっ?!でも、どうやって?」

「この私を、手に取れ。緑のお主だからこそ可能なのだ」

「あーーーーーーーーーーっ!!」

マスクの正体が、遂にあらわになった。

「こ、これは…営団の5000系マスク!!でも、どうして…?!」

「(あのマスクは…せるなちゃんの裏のまりむ…いや違う…)」

「これをつけることが出来る3人目の戦士は、千代田線担当のお主だ」

「えっ!本当?!系統が違うのに?」

「千代田線では、開業当初は5000系が使われていたのだ」

「!!」

「さらに今、北綾瀬支線では現役だ」

「青は東西線、オレンジは売却先の東葉高速線…
 そして北綾瀬支線…つじつまが合うのねっ!」


しおんは、5000系マスクを手に取った。

緑・レンジ・青の力が、しおんの体にみなぎってくる。
ドンから受けたダメージも、完全に回復できた。

「さぁ行くがよい!もう一刻の猶予もないぞ!」

「うん!」

「今のお主なら、このブラックホールは簡単に破れるだろう」

「よーし、札幌と同じ条件なら…!」

しおんは精神を集中し、目を閉じて静かに出口の位置を見極める。



「勾配43パーミル、南方向、ここが、出口ねっ!!いっくよぉーーーーーっ!!」

しおんの地元を走る、東海道新幹線の如く、高速移動により一点めがけて突撃!
そのパワーで空間の壁を破り、再びブラックホールの渦の中に出た。
しかし、MAXスピードで3色の力を盾に、渦の中を一気に突き抜ける。

「あれが出口!みんなー!今行くからねーー!!」





「これが、私たちの力よ!」

しおんが力強く言い放つ。

「なにをカッコつけおって!結局は寄せ集めではないか!」

「それは…違うね」

「何」

「お互いを大切にする、長く使う、これが私たち」

「なにしろ、あなたたち札幌組は、新しいものだけが正義で、古きものは例え良きものであっても簡単にスクラップにして歴史から消そうとする!」

暗に6000形のことを指しているのかもしれない。図星だった。

「しかし、私たちは違う!例え色や形が変わっても、長き時を共に過ごすのよ!永遠にねっ!」

しおんの力強い言葉に、先輩格の2人も感嘆する。

「そうだしおんちゃん!もっと言ってやれ!」


ドンは黙ったままだったが、口を開いた。

「くっ、言ってくれるじゃねぇか。それでこそ殺しがいがあると言うもn…
 …う…うっ…!!」


と、その時、ドンの体に異変が起きていた。

「?!…なに?なに??」

「あっ?!見て!あれ!!」

せるなは思わずドンの方を指差した。
その先、ドンの胸元に、謎の三角のマークが現れた!

「な…なんだ?!あの三角のマークは?!」

「う…うぐぐっ…」

ドンが、三角のマークを覆い隠すようにうずくまる。


「あの三角…きっと…あれが…!!」




その頃リーダーは、まだあの空間の中に足止めされていた。

「一体、何なのだ?!この光り輝く物体は…あっ?!」

やがて光が大きくなり、RAKのブレードと共鳴し始めた!

「な、なんなのだこれは?!まるで、光が生きているようだ…!」

目の前で起こる不思議な出来事に、RAKは戸惑いを隠せなかった。
やがて光が収まると、どこからか声が聞こえてくるようだった。


「…?! 誰かの声…これは一体…?!」


「よく、ここまでたどり着いてくれました」

「あなたならば、きっとあの悪魔を倒してくれることでしょう」

「(悪魔…あ!あのドンのことを言っているのか?!)」

「今、あなたのブレードに私たちの力を注ぎこみました」

「(私たち?!これは一体…?
 このスクラップの数々骸から察するに、ドンに殺された戦士たちの魂なのか?)」

その時、ブレードが今までに見たこともない輝きの色で光り始めた!

「おお…!まるで新品…いや、それ以上だ。なんという輝きだ。
 心なしか、まるで身体の一部になったようだが…
 これが、ドンを倒す最初で最後の武器になるのだろう」

「さぁ、もう、お行きなさい 私たちの仇を、取ってください」

さらにまばゆい光がRAKの視界をふさぎ、やがてホワイトアウトしてしまった!




「…はっ?!」

光が止むと、いつの間にか先ほどとは違う別の空間にいた。

「あれは一体、何だったんだろうか…?
 はっ!しまった!みんなは…ここはどこだ?」


キョロキョロしていると、前方にドアが見えた。これが恐らく出口なのだろう。
恐る恐るドアを開けると、どこか通路のような場所に出た。

「あっちから、光が見えて、音が聞こえるぞ。
 もしやあの先に、みんながいるのかもしれん」


RAKは駆け出した。この先に仲間たちが居ると信じて。



「みんな、待っていろ!今行くぞ!」

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