メトロ☆レンジャー

第8話 中編
「それぞれの風景」


:RAK
:隼鷹
:とわいせるな
:しおん
薄グレー:ドン・あさみ
グレー:怪人べるず
:NAL
(白:ナレーション他)


暗闇に包まれた、何処かわからない空間…
そこにいたのはドンあさみと、怪人べるずだった…

べるずはドンに、しおんを捕らえた事を報告していた。

「そうか、しおんを捕らえたのか…ご苦労だったな。」

「ははっ」

「残りの3人は、おそらく救出に来るだろうな。」

「恐らく。我々を倒すために、この3日で特訓していると思われます。」

「そうか。ならば、おまえのとる行動はわかっているな。」

「わかっております。さっそく行動に移ります。」

「うむ」

べるずはドンの前から、姿を消した。



ひとり、闇の中にたたずむドン。

「・・・」

「できることなら、ヤツと戦いたくはなかった…捨てがたいのも事実ではあったが…」

「今はまだ、戦うべきではなかったか…」

「果実は実らなければ、いい味は出ないからな…」

「…あたしの今の標的は…あのときの決着をつけなければならない…あいつなのだから…」

立川のバッティングセンターではせるなの特訓が続いていたが…


全身くまなく、ボールを受けた痕があった。


「ううっ…はぁはぁ…だめだ…全部のボールをかわしきれていない…」

「このままでは、2人の足手まといになってしまう…」

「今回の私の役割は、おそらく2人が順調に戦えるように助けてあげることになるのに…。」


残っているボールを受けていない部分は、顔と心臓の部分だけ…

だがせるなは特訓をやめようとはしなかった。


「こ、こんなことでは私は何も出来ない!後方支援の為には敵の攻撃を受けないことが大事なのに!」



そして再びスイッチを押し、四方八方からせるなめがけてボールが襲いかかった!!

攻撃を受け流すかのように、微妙な動きでかわしつづける。

「(いいぞ…今までよりも体が軽く動くわ!)」



と、そこへ…

「攻撃はひとつとは限らん!2つ同時のことだってあるんだぜ!」


突然の声。せるなは聞き取る余地も無かった。

「!最後のボールと共に、もうひとつのボールが!!!」


ひとつめのボールを交わし、2つ目のボールがせるなの心臓をめがけて突進してくる!!


「あぁぁあっ!!」



必死のせるなは、足を折り曲げ、膝でボールを真剣白羽どりの様に受け止めた!



「ハァハァ…何ということなの…あれだけやってもかわせなかった最後のボールをかわしたばかりか、突然のボールにも対処できた…」

「もしかしたら、私は心の何処かに特訓だからと言う甘い気持ちがあったのかもしれない」

「だから、今はきっと最後のボールにも反応できたんだわ。」



せるなは落ちていたボールをつかんだ。他のボールとは違い、色が黒かった。



「どうやら、この黒いボールに教わった格好になったわ」


「…でも、このボールは一体誰が?!こんなボールは見たことない…」



声の主は、それだけを見届けると、店の中から消えていた…。

山口車両基地では、隼鷹が特訓を続けていた。



「うわっ!」

またも特訓マシンにはじかれる。



A「何をしているんだ隼鷹!今の攻撃は今までの中でも一番悪かったぞ!」

「わかっている…わかってはいるんだが…」

「あのゴムタイヤの連中の(特にドンの)凄まじい攻撃のイメージが脳裏を掠めてしまう…」

「(しおん…キミもこの恐怖の中、べるずと戦っていたのか…!!)」



なかなか立てない隼鷹の傍に、何かが転がってきた。



B「なんだ。これ…」


見ると、紙をクシャクシャにしたものだった。


「何か書いてあるぞ」


C「なんだ…?」



“運転士は正面だけ 最後部にはいない”



A「何だ、この意味不明な文章は?」

B「なにかのイタズラか?」

「(正面だけ…最後部には…あっ!!)」


何かをひらめいた隼鷹は…


「よーし、特訓再開だ!!」



なんと、マシンを背にして立った!



B「何?!後向きでやるのか?!」

「おぉ!これなら恐怖心が無くなる!」



襲いかかってくるマシンに対して、後向きで飛びかかる隼鷹。

マシンから放たれる攻撃を感覚だけで微妙にかわしながら、メトロカードをばらまいた!


A「おぉ!メトロカードの力でマシンの動きが遅くなったぞ」

「今だ!!」


マシンに向かい、鋭い勢いの背面蹴りを浴びせる!

A「マーシャルアーツキックだ!」


そして間髪入れず、

「メトロ・ベンチレーター!」


ゴムタイヤめがけて冷気を放ち、

「抵抗制御熱風!」


抵抗制御装置独特の熱気で追い討ちをかけ、急激な温度差でゴムの耐久性を下げ…

「たぁーっ!!!」


勢い良く放った蹴りで、ゴムタイヤを粉砕した!!

B・C「おぉーっ!やったぞー!」

A「これなら、絶対に勝てるぞ隼鷹!!」

「ありがとうみんな!」



「(しかし…この紙は一体誰が…?)」




その特訓を影から見ていた者がひとり…


「(ふふ…これで隼鷹とせるなは終わり…では次はRAKのところへ行くか…)」

山中でのRAKの特訓が続いていた。

丸太をつかむまでは良いのだが、その後バランスを崩すなど、技の姿は見えてはいるのだがそれが成果に現れない。


「ハァハァ…」


丸太も底をつき、疲労の極致で倒れそうになるRAK。


「ダメだ…やはりオレには無理なのだろうか…」



「そんなことで諦めていては、リーダーとしての資質が問われるぞ…」

何か、かすかに声が聞こえたような気がした。

だが、それが声だとは気がつかなかった。そこへ…

「グルルルルル…」

「な、なんだ?!あれは…イノシシか?!」


見ると丘の上に、黒いイノシシが今にもこちらに飛びかかってきそうな感じだった。


「も、もしや山の主ってやつか?!」

そして、イノシシがRAKめがけて突進してきた!!

身構えるRAK。

「…!!落ちつけ…あれを敵の突進攻撃とイメージするんだ…」


突進するイノシシに対し、身構えたままひたすら待ちつづける。

「(見えた!)」

飛びかかってきたイノシシを寸出でかわし、態勢を逆転させた!
真上を通過するイノシシの後足を素早くつかみ、逆さにしてそのまま勢い良く地面へ急降下!
暴れるイノシシの前足を、自分の両足で挟んで身動きを封じて、


「おぉぉぉーっ!!」


イノシシを捕らえたまま、技を決めて着地に成功!

両足と首を痛めつけられたイノシシは、そのまま動かなくなった。


「こ…これが…先代の技なのか…おぼろげながら見えてきたぞ!」

イノシシの屍を見ながら、

「こいつが現れたことで、必死さが出た…それが成功に繋がったのかもしれないな。」




イノシシの飛びかかってきた森の影に、何者かが潜んでいた。


「即席で作り上げたから、あんなものでごまかせたかな…イノシシには悪いことをしたな…」

「ん…」

「ここは…」


囚われの身となったしおんが目を覚ましたのは、牢屋のような部屋だった。
牢屋とは行っても比較的きれいな6畳ほどの空間で、扉が鉄格子であるだけだった。窓は無い。
もうひとつの扉の奥にはトイレとシャワーがあった。


「確か…あたしはあの時べるずに倒されて…」


体を見てみたが、傷がほとんどなくなっていた。
服も多少傷ついてはいるものの、直されていた。


「…目が覚めたか」


鉄格子の向こうには、椅子に座った怪人べるずが!


「服は部下に直させ、傷には回復術を施しておいた。オマエは治りが速いようだな。尊敬に値するぞ。」

「…!!」

「まぁ、そういきりたつな」

「こ、ここはどこなの?!」

「言っても意味は無いと思うが…まぁ、我々のアジトだとでも思ってくれ」


そう言うとべるずは席を立ち、何かを持って鉄格子に近づいてきた。


「食べろ」

「…何のマネなの?」

「いや…何のマネと言われてもな…食事は必要だろ?」

「…毒とか入ってないの?」

「よほど信用されてないようだな…まぁ、無理もないか」

「単なる出前ものだ。残さず食べろよな」

「オマエは認めたくはないのだろうが、今のオマエはいわば我々の捕虜だ。大事に扱うのが当然だ。」


恐る恐る、丼に手をつけるしおん。
中身は豚丼だった。


「(もぐもぐ…おいしいじゃないの…もぐもぐ…)」

「食べながらでいいから聞け。後日お前を助けに、メトロレンジャーの連中が来る。」

「そうよ!あんたなんか、みんなにこてんぱんにやられちゃえばいいのよ!」

「…その私にこてんぱんにされたのは、何処のどいつだ。」

「うっ…」

「そのとき、お前には少しの間、薬で眠ってもらう

「な、なんですって!」

「大したことじゃない。あいつらの戦う気を引き出す為さ」

「それとも、お前は助けに来る仲間の力が信じられないのか」

「信じてるわよ!絶対に…勝つわ!」

「…」

「それでいい…。仲間を信じろ…。」



意外な言葉を投げかけられ、困惑するしおん。



「(…?? この人、一体何を考えてるの…??)」

「…」



それだけ言うと、べるずは何も言わずに席を立ち、しおんの前から消えた。



「…」

べるずの発言と態度に疑問を持ったまま、しおんはしばらくの間、ただその場に立ち尽くしていた。

東京メトロ本社。
RAKは先代の残した書物を戻す為に、地下の書庫にいた。

「そういえば、先代の記録があるかどうかもわからなかったのに、ここの書庫で最初がむしゃらに探したなぁ…」

「オレには、そうしたハングリーさが最近欠けていたかもしれないな。」

「特訓で改めて、そうしたものを見つめなおすことが出来た…」


そして書庫に先代の記録を残し、後にしようとしたRAKの目に何かが…


「ん?なんだこの本。ずいぶん古い本だが…」


古ぼけた、何の変哲もない本だったが、妙に気になった。


「なんだろう、何か胸騒ぎがする…」



恐る恐るその本を手にとり、中のページを少しめくってみた。
やたらと古い書体で、しかも文章が右から左に横書きになっている。
かなりの古い本だと推測できた。



「随分と古い本のようだが、内容はどうなっているのだろう…」


と、よーく文章を見て…RAKが驚愕した!!

「こ、このページ…平成12年の日比谷線事故のことを書いてある!!」



驚きを隠せないまま、他のページを見てみた。すると…

「これは…地下鉄サリン事件のことだ!」

「こっちのページには…東西線に半蔵門線車両が使われた記録が…!!」


大慌てで、本の後ろの奥付を見た。その日付は…!!

「な…た、大正だと??!!!」



「こ、これは…まさか未来の予言書なのか!!」

「書かれているすべての事が、細木和子の占いよりも当たっている…」

「こ、これはもしや昔の営団の方が、オレ達子孫のために書き残したのか!」


「これは…オレ達への警告だったのか…もっと早く気がついていれば、災いも防げたんだ…」

「きっとこの本のことは、司令も知らないのだろう…」



本を持ったまま、RAKはあることに気がついた。
「ならば、今回のこともこの予言書に載っているのでは…?」


ページをドンドンめくって見た。しかし、その記載の日付は、2004年3月31日で終わっていた。
「こ、この先の記述が…ない…」



しかし、最後のページの一節に…



“歴史に終止符が打たれ、新たなる日が昇る時、一度きりの最高の力となる”



「この言葉…他のページとは明らかに違うニュアンスで書かれている」


「何か、この先のべるずやドンとの戦いの、ヒントなんだろうか…」



RAKは予言書を元に戻し、書庫を後にした。
だが、言葉の意味がどうしてもわからなかった。

その頃、NALはひとりでどこかへ向かっていた…

「待ってろ…必ず決着をつけてやる!」

その表情は険しく、悲壮感さえも漂っていた。


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