メトロ☆レンジャー
第9話 〜1〜
「決戦序章」
赤:RAK(マルノウチレッド)
黄:隼鷹(ユウラクイエロー)
青:とわいせるな(トーザイブルー)
グレー:怪人べるず & Other…
(白:ナレーション他)
グリーン・しおんが囚われてから、3日。
遂に、決戦の日を迎えたメトロレンジャー。
MCビル。
出発を整えるRAK。業務は部下達に任せる旨を朝に告げた。
生きて帰れるかどうかわからない戦いに不安は離れなかったが、後戻りは出来ない。
悲壮な覚悟を決めたRAKは、昨日1人で医師から受けたNALの容態の説明が脳から離れない。
昨晩…
「なんですって?!」
「毒劇物を、口から流し込まれています。口周辺から強い反応が出ました。」
「成分を分析する限り…おそらくは×××ではないかと…」
「昏睡状態です。正直、意識が戻るかどうか…。」
「…!!」
「ま、まさかアレをいまだに製造できる術があるなんて…!もう壊滅したと思ったのに…」
「RAKさん…このままではあなた達も…」
「…先生…でも、やるしかないんですよ。今回ばかりは…!」
「本当に…あんな怪物を相手に戦えるのだろうか…」
「いや、リーダーとしてみんなに認められたオレが、こんなことではいけないんだ!」
「必ずや、生きて帰らねば…!」
RAKの手には、使い古した青春18切符が握られていた。
以前、まだメトロレンジャーとしての使命を帯びる前に、NALと旅をしたときの思い出の品である。
「司令…見ていてください…必ずや敵を討って見せます。この街と、鉄道の平和のために…!」
RAKは荻窪から慣れ親しんだ丸の内線に乗った。
いつもと変わらない02系の車内。いつもと変わらない人の波。
池袋行きの6両編成の電車は、いつもと変わらずにRAKを運ぶ。
違うのは、RAKの行き先が、生死を分けるということだけであった。
赤坂見附で銀座線に乗り換えた。
「便利な駅だな…」
この駅では、銀座線と丸の内線が同じホームで乗換えが出来る便利な2層構造になっている。
銀座線が開通した時、丸の内線が並行することを見越して、2階建てホームとなったのである。
先人達の先を見据えた結果は、現代に便利さという形で受け継がれていく。この先もずっと…。
そんな先人達の思いを胸に、銀座線の01系電車に乗り込んだ。
目指すは…新橋…。
行徳のあるアパート。
いつも休日になると昼まで寝ることが多い隼鷹も、この日ばかりは早く目が覚めた。
「こんな日に限って、早く目が覚めるんだよなぁ…いつもだと遅くて、とわさんに怒られてるのに…」
終電に間に合わなかった隼鷹は、せるなに頼み込んで一晩泊めてもらっていた。
起きた時にせるなの姿はなかった。
「あ、起きてたの?」
せるなが部屋に入ってきた。コンビニで買い物をしてきたようだ。
「珍しいじゃない。いつもは先に寝て、後から起きるのに。」
「言うなよ…」
「まだスーパーが開いてなかったから、こんなもので勘弁してね」
「うん」
そう言うとせるなはエプロンを装着し、台所に立つ。
その間、せるなのノートパソコンで隼鷹はネットニュースを見る。
「(こうして平和な日常が、送る事が出来るのは、いつになるんだろう…)」
「できたよー」
「おっ」
テーブルには、冷蔵庫の残り物を活用して作ったパスタなどが並べられた。
食べながら、今日のことを考えずにはいられない2人…。
「リーダーは、先に行ってるんだよね」
「うん、だから私たちも早く支度しないと」
いつもであれば、もっと明るいムードの食事なのだが、この日ばかりは静かだった。
食べ終わると、隼鷹が急ぎ食器を洗い、せるなは支度を始める。
そして、2人は家を出た。ここはいつもと変わらない。
ただし、その行き先だけは…2人の将来を必ずしも保証するものではないことだけは確かだった。
それがわかっているのか、駅までの間も、どこかいつもの2人ではないことは明白だった。
行徳駅から、中野方面行き電車に乗車する。到着したのは5000系だった。
05系やE231系が多くなる中で、いつぞやの東葉1000系同様にクラシカルな車両である。
旧車好きの隼鷹にとっては、東西線の代名詞的存在である。
先ほどまで重たい空気が流れていたが、少し和らいだ気がした。
「やっぱ、いいよね、5000系は。」
「そうね、もうすぐなくなるのが、ちょっと寂しいかな。」
「…また、見ることができればいいな…」
「…あのさ…」
意を決して隼鷹が話し始めた。
「なぁに?」
「俺達…生きて…戻ってこれるよな…」
「…どうしたの、急に」
「NAL司令ですら、再起不能とまで言われる重傷になったのを見てさ…」
「…」
「…隼鷹さんが、そんな弱気でどうするの!そんなふさぎ込んだ顔は嫌いなの!」
「そんなに弱気に見えるかい」
「見 え ま す」
「アイタ…」
「いつものように、もっと元気を出しなさい!」
隼鷹にハッパをかけるせるな。せるな流の励まし方だ。
「そうだね、しおんちゃんなんて囚われの身で一人なんだから、それを考えれば…」
「そうそう」
「助け出して、敵をやっつけて、またみんなで遊びに行こうか!」
「そう、よく言いました!」
「(相変わらず単純だな…でもまぁ、いいか…この素直なところが隼鷹さんのいいところなのよね…)」
せるなは昨晩から、隼鷹の心の中に不安な気持ちが先立っているのをわかっていた。
だからこそ、自分がそれを取り払ってあげなければと思っていた。
もちろん自分にその不安がないわけではない。
だが、隼鷹を思う気持ちが、自らの不安を上回ったのである。
「日本橋だね」
「乗換えしないと…」
2人はここから都営浅草線に乗り換えて、新橋を目指す。
乗り換え通路には「都営1号線」の表記が今も残る。隼鷹はこうしたものを好む。
「やっぱ、1号線だよなぁ…」
「今はね、浅草線なの!そんな言い方、古いわよ」
「痛いこと言うなー!」
浅草線ホームに滑り込んできた電車は、都営浅草線の5300系であった。
浅草線に15年ぶりに投入された主力電車で、白地に赤のラインが特徴的だ。
行き先は京急線直通・羽田空港だった。
「都営は…」
「5200系と言いたいの?」
「うっ、なぜわかるんだ」
「顔に書いてあるわよ♪」
「なにー!」
ようやく、いつもの2人らしくなってきた…のもつかの間、電車は新橋に着いた。
「リーダーは、もう着いてるのかも」
「じゃあ、急ごうか」
「SLの前で待ってるって、メールがあったわ」
「よし、行こう」
出口の階段を駆け上る2人…。
外から見る限りでは、平凡な普通のカップルだ。
だが、普通のカップルとは、格段に違う宿命を帯びているのだ…。
連絡通路を歩いている時…
「あのさぁ…」
隼鷹が口を開いた。
「どうしたの?」
「普段の仕事さ…辛い辛いとか言ってたけども…もう言わないことにする」
「?」
「この先、もっと辛いことがあるわけだし…それを乗り越えれば…」
「…」
「もし…今回…生きて帰ることが出来たらさ…俺と…」
せるなが待ったをかけた。
「待って。」
「え?」
「その先は、まだ言わないで。」
「…」
「…その先は、…生きて帰ってきたら…ね。」
「…わかった…!」
出口の階段も終わり、地上に出た。差し込む光がやけに眩しく思えた。
せるなが今度は先に口を開いた。
「忙しいのはわかってるよ。でもさ…」
「うん」
「…式場の予約くらいは、しておいてよね」
「えっ…?!(そ、それって…?!)」
だが、せるなはすぐに前を向いて、駆け出した。
「ほら、リーダーがいたよ!行こう!」
「…わかった!」
後から追うように隼鷹も駆け出した。
3人が合流したのは、新橋駅前のSLの前。
ここは明治時代、日本で初めて鉄道が開通した場所としてあまりにも有名な土地である。
会社や飲み屋も多く「サラリーマンの街」として親しまれているが、一方では再開発による超高層ビル群や、お台場方面への新交通「ゆりかもめ」の始発駅であったりと、近年は多彩な顔を誇る。
「よし、これで3人揃ったな」
「しかしリーダー、肝心の怪人べるず達はどこにいるんすかね」
「それがわからんのだ。何も手がかりがない…」
「お前達が来るまでの間、このSLもよく探してみたのだが…何もなかった」
「少し、この近辺を探してみてはどうですか」
「そうだな、手分けして探してみようか」
3人はそれぞれ分かれて、怪人べるずたちの手がかりを探し始めた。
RAKはJR駅を、隼鷹は地下を中心に、そしてせるなは地上を…。
だが、何もつかむことはできなかった。
「ゆりかもめなら、ゴムタイヤだけに何かあるのかと思ったけど…」
手がかりをつかめなかったせるなは、ゆりかもめの新橋駅から、元のSLの場所へ戻っていった。
それを、影から見ている人影があったことに、せるなは気がついていなかった…。
「(あれが…とわいせるなさん…なんですねぇ…楽しみです…。)」
人影は、再び消え、そこには静寂が走った。
「どうだ。」
「ダメです。ゆりかもめの新橋駅にも、何もありません。」
「そうか、残るは隼鷹か…」
「リーダー!とわさーん!」
隼鷹が急ぎ、駆け寄ってきた。
「どうした、何かあったのか!」
「…その…気になったことが…」
「どうしたの」
「もうひとつの新橋駅に、行けませんかね。」
「…!隼鷹!いいところに気がついたな!」
「なんです?もうひとつの新橋駅って。」
鉄道初心者のせるなには、意味が今ひとつ掴めなかった。
「そうか、せるなはわからないか。昔、新橋の地下鉄駅は2つあったのだ。」
「それって、銀座線と浅草線じゃないんですか?」
「いや、今の銀座線と呼ばれる前の時代に、新橋駅は2箇所あったのだ。」
「それで、乗換えが不便だということで、ひとつに統一されたのだ。」
「(ポケットからボタンを出して)へぇ〜。でも、なんで2つ?」
「(1へぇかよ!もっと叩いてやれよ!)」
「簡単に言うと、地下鉄を運営した会社が当時2社あったということさ。」
「なるほど、わかりました。」
「使われてないほうの新橋駅は、まだ現存している。リーダー!行ってみましょう!」
「よし!」
3人は急ぎ、銀座線ホームへ向かった!(入場券使用)
銀座線ホームから、3人は業務用ヘルメットをかぶって線路下へ降りていく。
銀座線は3分に1回電車が来る緻密ダイヤなのだが、電車が通過したのを見計らって一気に駆け出す。
それほど離れてもいないし、電車はこの使われていない線路に来ることはない。
かつての旧新橋駅は、歴史の証人として、残されることが決定していた。
ときおり、この駅を探索するツアーも以前は営団地下鉄主催で行われていた。
「すごい!新橋の文字が逆に書いてあるわ!」
「新 橋」ではなく「橋 新」と、タイルで文字が作られているのを見てせるなが声を上げる。
「こらこら…遊びに来たのではないのだからな…」
「初めて見るから、ちょっと興奮気味のようです。」
「何か言った?」
RAKの口に、かすかな笑みがこぼれる。
「(やはり…司令の読みはあたっていたな…せるながいるだけで、場の空気が明るくなる。)」
静寂に包まれた、旧新橋駅ホーム。
「何も、ないのかしら」
「…あ!!…み、みんな!あれを…あれを見て!!」
「どうした隼鷹!!」
隼鷹の指をさした先には…あの忌まわしい…六角の魔法陣が浮かび上がった!!
「あれは…ゴムタイヤ同盟の魔法陣だな!」
「遂にお出ましね!」
「やい!怪人べるず!出て来い!しおんちゃんを返しやがれ!」
魔法陣の中から、怪人べるずの声が聞こえる。姿は見えない。
「よくぞここまで来たな!メトロレンジャー達よ!」
「しおんを助けたくば、我が陣に入ってくるがいい!」
「何だと!」
「これが、我々の戦いの場へと繋がる唯一のトンネルだ!これをどうするかはお前達の自由だ。」
「何ですって!」
「さぁ、仲間を助けたくないのか!」
「言われなくても、行ってやるわ!」
飛び込もうとするせるなを、隼鷹が止めた。
「(まて、とわさん、これがべるずの罠だとしたら…)」
隼鷹がせるなに耳打ちをした。
「(でも、しおんちゃんを助けるには、これしか方法が…!)」
2人に対し、RAKが口を開いた。
「火中の栗を拾うようなものだが…ここは策に乗ったふりをして飛び込もう。」
「しかし…」
「隼鷹、ここに来た時点で、死ぬ覚悟も出来ていたはずだ。何も恐れることはない。」
「皆で力をあわせれば、必ず勝てる!しおんを助け出そう!」
「…ですね!行きましょう!」
(3人で)チェンジ!メトロレンジャー!!
変身した3人は、魔法陣の中へ自ら飛び込んでいった!