メトロ☆レンジャー
第12話 その5
「1対4」
赤:RAK(マルノウチレッド)
黄:隼鷹(ユウラクイエロー)
青:とわいせるな(トーザイブルー)
緑:しおん(チヨダグリーン)
薄グレー:ドン・あさみ
紫:NAL
グレー:怪人べるず
(白:ナレーション他)
<前回までのあらすじ>
隼鷹・しおんが倒れ、リーダーが行方不明になり、ついにたった一人になってしまったせるな。
だが、ここからせるながメトロレンジャーの意地を見せつける!
「私はね、まだまだおねんねするわけには、いかないのよ!」
「怒りをエネルギーに、まりむにしか使えないはずのロッドスピアまで使いこなすとは…!」
ドンは左手に火、右手に氷を発生させる。それを見たせるなが問いかける。
「こちらもそろそろ、本気でかからないとなぁ」
「さっきから思ってたけど…やっぱりおかしいわ!」
「何がだ」
「その2つは、同時に起こすことのできないモノ同士!」
「いくらラスボスのあなたでも、違う属性の術や技を同時に使うなんて…
さっきの…隼鷹さんを倒した攻撃しかり…」
「ほう、さっきの謎に気がついたのか」
「じゃー、冥途の土産に教えてやろう」
「…?」
「あたしのエネルギー源はな、ゴムタイヤなどではない!」
「?!」
「あたしのエネルギー源は…」
ドンは地面を指差した。
「足?」
「…この地球そのものだ!」
「?!」
「考えろ。あたしが起こす技は基本的に自然現象、お前たちで言うところの災害だ」
「この地球こそ、森羅万象、すべてのことを起こすことができる根源…
あたしはここに目を付けたのさ だから、自在に操ることができるのだ!」
「ま、まさか…地球の力を味方につけていたなんて!!」
衝撃の事実に、驚きが隠せないせるな。
「(か…勝てるわけがない…こんな怪物に…)」
今にも逃げ出したい衝動に駆られた。
だが同時に、目の前で次々に倒れていった仲間の姿が浮かんだ。
それが、臆病な心を吹き飛ばした。
「(まりむ…しおんさん…隼鷹さん…リーダー…)」
カッと目を見開いて、せるなは再びドンに対峙した!
もう、迷いはなかった。
「あなたが地球の力を使うなら、こっちだって仲間の力を使ってあげるわ!」
「ふっ、何を。寝言は寝てから言いな!」
襲い掛かってくるドンに対して、せるなの両手には大量のカードが!
「くらえ!カードシャワー!」
隼鷹の車掌バッグ技、カードを飛ばして足止めをする!
「むっ!こしゃくな!」
「まだまだ!! パンタグラフ・ウィングシュート!」
今度はしおんの技を繰り出す!
羽根をパンタグラフに変形させるにはしおんの羽根が必要だったが、それを必要とせずに背中のパーツがパンタグラフに早変わりした!
「ま、まさかお前がこの技を!」
突然の奇襲攻撃で、かわすことに集中するドンの隙を、せるなは見逃さなかった!
「まだまだ!あなたに恨みを抱えて倒れた仲間は、もう一人いるからね!」
カードの波に紛れながら、ひるんだドンに急接近して、ロッドスピアを短く持った!
「くらえ!東葉快速・地獄ラッシュ突き!」
まりむの技にさらに応用をかけて、ドンに大ダメージを与えることに成功した。
そして、間合いを取ってロッドを見つめる。
「まりむ…あなたの分まで…頑張るよ!」
「(油断は、禁物だ!)」
ドンはすぐさまとび蹴りで奇襲するが、せるながまだ気がつかない!
しかし、その瞬間ドンに何かが飛んできた。
「?!な、なんだこの物体は…!目が見えん?!」
「えっ…?!」
「…はっ!!」
せるなはドンが接近していることに気が付き、その場を離れた!
「こ、これは…しおんちゃんの羽根!」
「(まさか…意志をもって飛んできたとでも…?)」
そのまませるなをつかんで放り投げ、空中でキャッチした!
うつぶせの体制にしたせるなを下にして、地面に向かって斜め方向から突っ込んでいく!
「勾配43‰落とし!」
再び地面に顔面をこすりつける技を狙い、仕掛けてくる!だが…
地面に、突然大きな上着が!
その上着がクッション代わりになり、せるなの体を包み込んだ!
「こ、この黄色の服は…なんだ?!なんでこんなものが?!」
だがそれでも勢いが止まらず、地面にそのまま接触するかと思われたせるなの体が、何者かが受け止めた!
「うわっ!」
勢いが急に止まり、バランスを崩したドンが前のめりになって倒れた。
せるなの体に残る、誰かの両腕の感触…
「(一瞬、まりむの姿が見えたような…あっ?!)」
だが、すぐにまりむの姿は、灰と消えた。
一瞬、笑みを浮かべていたように見えたのは、目の錯覚だろうか…
その黄色の服は、隼鷹の上着だった!
「私は、なんて幸せ者なの…!
誰もここに姿がなくても、みんなが守ってくれる…ありがとう!」
せるなは、主のいないアイテムを抱きかかえて泣いた。
「そうこう言ってられるのも、今のうちだ!戦士が戦場で涙を流すな!」
襲い掛かるドンに、怒りの目線を向けてロッドを向けた。
その瞬間、不思議な現象が起こり始めた!
「ん?…う、うぬぁぁぁぁぁっ?!」
襲ってきたはずのドンが、逆に回転しながらせるなから遠ざかって行く!
ロッドの先から、強風が巻き起こっていた!
遠くから見ていたNALと怪人べるずは、その光景に驚愕した。
「ま、まさか。せるなが悪天候をベースにした技を!」
「どうして、ドンの専売特許である技が使えるようになったんだ…?」
「何度も何度も食らっているうちに、せるなの中で何かが起きたのだろう」
「確かに、彼女だけが一回多く喰らっている(第6話中編)が…」
「おそらくは、せるなが手にする、あのロッドだ」
「あの三角吊革ロッドが?」
「私にも全ては分からん。だがあのアイテムには、何か隠された気がするのだ…」
「そうだ…何もドンばかりが有利になっているわけじゃない…
私にだって、好都合なんだ…!このロッドがきっと…」
「なにをゴチャゴチャ言ってやがる!とどめだ!」
「待ってたわ!この瞬間を!」
飛び掛かるドンを引きつけて、ロッドから天候の技を放つ!
「荒川・竜巻地獄!」
「うっ?!ぬぁぁぁぁっ!!」
突然の竜巻攻撃にドンがひるむ!そこへもう一度ロッドを向ける!
「今だ!ゲリラ豪雨!」
間髪入れず、シェルターバリアを張られる前に瞬間的攻撃!
ドンはかわすことができず、まともに食らって吹き飛ばされた!
かなりのダメージを受けたのか、その場に膝が折れてしまった。
「ハァ…ハァ…くっ…!」
「やはりね…札幌の地下鉄は雨や雪に耐えられない構造だからと思ったけど…」
「?!」
「あなたは確かに、自在に天候の技を使いこなす。でも、その時は決してその中にいなかった!」
「!」
「いたとしても、シェルターバリアを張ったり、薄いオーラで体を一時的に覆っていた…」
「それはすなわち、直接当たることを嫌がったからでしょ!」
「な…!」
ドンがこれまでに見せたこともない、動揺の色を見せた。
「図星だったのね」
「くっ…貴様、あたしの大事な秘密をばらしやがったな…許さん!」
ドンは両手をかざし、巨大な雨雲を作り上げてせるなに攻撃を向ける!
「自分が食らわなければいいだけのこと!それには攻撃しかない!」
「負けるものですか!えーいっ!!」
せるなもロッドから大きな雨雲を作り上げ、ドンに対抗する!
「台風・367号!」
まさに一帯は雨と風の吹き荒れる大合戦になった!
遠くから戦況を見つめる2人…
「これは…疲れているドンの方が不利か?」
「いや…無理だ…せるなはあまりにも大きなものにケンカを売り過ぎた…」
徐々にせるなの方が押され気味になってきた。
「うっ…こちらの勢力は弱くなっているのに、ドンは衰えない…!」
「これじゃあ、あたしの負けはないな」
「なんですって?!」
「考えろ。あたしのエネルギーの供給源は、この地球そのものだ!」
「おまえの限りある体の力で、どこまで張り合える気だ?」
「うっ…相手がでかすぎる…!」
徐々にせるなのロッドで起こす嵐が弱くなってきた!
「やばい…方法を変えないと!」
一瞬技を解いて、メトロ快速を使ってその場を離脱するが…
「くたばれ、雹の舞!」
ドンが頭上に起こした巨大な雲から放たれる雹が、せるな目がけて襲い掛かる!
「あの時の悪夢(第6話中編)とでも、言わせたいの?今度はそうはいかないわ!」
「雪と氷の攻撃には…これね!灼熱のバリア“ライジング・サン”!」
まりむが使った雪と氷に対する技で、雹を溶かすことに成功した。
「東西線は抵抗制御車が残っていたし、まりむも使った技!だから、私でも熱を出すことができるのよ!」
「そんなのは、織り込み済みだ!」
「?!」
「あたしの狙いは、お前が温度を上げることで空気の流れを変えることだ!」
「大気の状態が不安定になると、何が起こる?」
その瞬間、さらに巨大な雲が、ドンの頭上に現れた!
「こ…これは…雷雲!!」
「サンダー・シュート!」
雷をミックスした攻撃に、翻弄され続ける!
メトロ・快速で逃げ回りつつ、反撃のチャンスをうかがうも、交わすのが精いっぱいだった。
逃げるのに夢中なせるなの服のポケットから、何かがこぼれ落ちた。
しかし、せるなはまだフィールドに起きた異変に、何かを落としたことに気が付いていなかった。
落ちた物体が地面に当たり、何か音がした。
カチッ!
…プシューーーーーーーーーーーーーーーーーッ…
ドックン、ドックン…
「(…?なんだろう?空耳かな…って、そんな場合じゃない!)」
「あぁっ!!」
一瞬の油断から足元がもつれ、せるなは転倒してしまう!
「逃がさん!」
すかさずドンが雷を実体化させ、せるなの手足を封じ込めにかかる!
せるなは両手両足を、実体化しサーベル状になった雷によって地面に磔にされてしまった!
「う…動けない…!」
「アイタタタタ、叩きつけられた…」
RAKは最深部まで落とされてしまったが、打撲だけで何とか助かった。
「ここが、ドンの間の最深部なのか… な、なんだこれは?!」
RAKが目の当たりにしたのは、おびただしい鉄道車両スクラップの残骸だった。
まるで泣いているようにも見える。
見てみると、見慣れた車両の姿もそこにあった。
「こ、この舞台は…このスクラップの上に作られていたのか!
おそらく、アイツがこれまでに仕留めたのか…」
そして見上げてみたが、隼鷹たちのいる場所ははるか上。
かすかに光が見える程度だ。
「登れるだろうか…しかし、早く行かないと!」
RAKはスクラップの残骸の柱を上に向かって登り始めた。
「頼む…着くまでの間、みんな無事でいてくれ…!」
「ちょこまかと動き回り追って、まぁいい、これで終わりだ!」
ドンは大ダメージを負って動けなくなったせるなを上空から見下ろす。
「おまえには、特別に墓標を立ててやるぜ。あの世で感謝することだな」
ドンは雲から雹を自らの体めがけて放ち、それを手に巨大な十字架を作り上げた。
その先は、鋭利に尖っている!
「(くっ…こ、この手足さえ動かすことができれば…)」
せるなはなんとか外そうともがくが、手足を貫き地面まで刺さっている為に自分の力だけでは脱出できない。
「さしもの奇跡も、もう起こるまい…このあたしをここまで疲れさせるとはな…」
「殺すには惜しい女…手下にでもしたいくらいだったが、仕方あるまい」
この時、ドンは勝利の余韻に浸っていたからだろうか。
フィールドに起きた異変に、未だ気が付いていなかった…
ドックン、ドックン…
「…??なにかかすかに音が聞こえたような…?!」
「な、なんだ?!あの手は…」
NALと怪人べるずの見た先には、瓦礫の山の中から手が動いているところが見えた!
「今動けるのは、あの場にいるドンと、せるなだけのはず…」
「あの黄色とグレーの組み合わせ…ま、まさか?!」
「さぁ、死ぬがいい!これでメトロレンジャーも、終わりだ!」
十字架を抱え、急降下したドンの狙いは、せるなの心臓!
「(う…動けない…もう、これまでなの…?!)」
だが、急降下するドンに目がけて、何かが飛んで行く!!
その後ろには、…黄色の残像!